23人が本棚に入れています
本棚に追加
貴方が何とかしないと、皆死にますよ?と無言での圧迫。しかし、リリも引かない。何かを決意している目で、力強くクリスを見返す。
徐々に、空気が重くなっていく。絶体零度の微笑と絶体零度の眼差し。勝つのはどっちだろう?と、他人事のようにクリスとリリの顔を交互に見る。と、先に沈黙を破ったのはクリスだった。
「あ、来ちゃいましたね~」
クリスの目線の先、リリと俺にとっては背後に顔を向けることになる。
そこには、一人の男が立っていた。
「あなた、わざとね?」
「何のことでしょうか?」
「こっちに、奴がいることを知っていたのね?」
「この道を選んだのは、リリさんですよ?」
「私をここで立ち止まらせた」
眉間にしわを寄せ、不愉快極まりないという顔でクリスを睨みつける。対するクリスは、軽く肩をすくめただけだ。
「…こ、こいつが?」
「イレイサーよ」
色褪せた金髪に緑の目。明らかに外国から来ただろう20代後半の男。黒いコートをはおり、中には同じ黒いシャツに黒いパンツをはいている。
そして夏だというのになぜか男からは、温度というものを感じない。男の回りだけ、ポッカリと時間が止まっているように。
鳥肌がたつ。男に見られているだけで、男の空間に引きずりこまれる錯覚が、頭をよぎる。無意識に足が一歩下がった。
最初のコメントを投稿しよう!