鬼と少女

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いや、嫌です! 兄さま、私を置いて行かないで! 辺りが闇に支配されている森の中、少女の声が響きわたる。 少女の悲痛な叫びを、獰猛な雄叫びがかきけした。 少女の真ん前に立ち塞がっている2本の角の生えた黒い固まり。その物体が血に飢えた紅く光る瞳で、少女の腕の中で今まさに息を引き取った男を映す。 「―――!」 離れた場所で、腕から血を流している男も何か叫んでいる。だが、よく聞き取れない。 この男に、用はない。 …いや、少女の腕の中で永遠の眠りについた男にも、用も、興味も、なかったはずだ。 なぜ、こうなった?怪物の前に姿をあらわさなければ、死なずにすんだのに。なぜ、自分の前にいるのか? 暴走している怪物に近付くなど、自殺行為だ。 弱い生き物である人間に、怪物を倒せる者などいはしない。 ふいに、少女が立ち上がった。 足にうまく力が入らないのか、少しよろけている。 「……私が、やらなきゃ、いけないの…」 少女が、自分にしか聞こえない声で呟く。 スッと黒耀石のような黒い瞳を、怪物に向ける。幼い少女と、黒い怪物の目があう。 怪物は、なぜか怯んだように一歩後ろへ下がった。 捕えられたように、少女から目を離すことができない。
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