鬼と少女

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「……」 「……」 どれくらいそうしていただろう。猫のぬいぐるみと少年は、時が止まったかのように、お互いを見つめあっていた。ふいに、猫の人形がドアの陰に引っ込んだ。 「あ、」 少年が間抜けな声を出したと同時、ドアが広く開け放たれた。 玄関には、靴を脱ぐスペースがなく、どうやらここの人間は土足生活らしいと想像をめぐらす。 玄関の真ん中で、先程の猫のぬいぐるみが、ちょこんと立っている。少年と再び目が合うと、くるりと向きを変え、ちょこちょこ歩きだした。 「不思議館」とは、本当だったんだなと、クラスメイトの言葉を思い出しながら、少年は猫のぬいぐるみについていく。 『ジルファード探偵事務所』 クラスの女子の話によると、「何でも解決してくれる所。警察がどうすることもできない事件でも、ここに来れば解決してくれる、裏では有名な事務所」らしい。 そう、俺は、ここに大事な用があって来たのだ。 身長30センチにも満たない案内人は、年季の入った両開きの、これまた高そうな扉の前で動きを止めた。 どうやら、ここが終着点らしい。猫のぬいぐるみが、別布で後付けされた肉きゅう入りの小さな手を上げ、扉を叩く。 …… 布が音を吸収して、ものの見事にノックの音をかき消した。 考えこむように数秒固まった後、後ろに立っていた少年を見上げる。
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