蘭の咲く季節に

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伊涼も眠り、静まり返った宮殿の庭に一人、座っていた 頭上には、満天の星空が 広がっている ―そういえばあの時も… こんな夜空だったね― 「どうしたんですか……? こんな時間に…」 振り返ると、赤茶けた髪に 大きな瞳をしている男が、 不思議そうな顔で立っていた 「まぁ…陛下……」 そう言うと彼は苦笑いした 「母さん、ここは堂じゃない…陛下は止めて下さい」 そう言うと彼女の隣に腰掛けた 「少しね、星を見てたの」 「僕も、久しぶりに星が見たくなったんです」 輝く空を見上げた 「…ここから見える星は、 いつまでも変わりませんね… 母さんから教わった星の名前、今でも覚えてますよ」 彼の横顔を見つめる 「…来神、あなたは立派に なったわ…」 そう言うと、彼は照れ臭そうに笑った 「僕なんて、まだまだです… 母さんにも……父さんにも遠く及びません」 「きっと広夢だって」 また空を見上げて微笑んだ 「そう言ってるわよ……」 少し暖かくなった夜風が、 春の香りを運んでくる 二人は暫くの間、輝く星空と 見合っていた 喧蘭凪砂は、中華帝・広平来神の母であり、自身も帝国の重鎮である 彼女は、分け隔てなく人と接し誰からも愛される人だ その身分にも関わらず、自ら 畑を耕し、子供達に勉強を教えたりして、民衆を支えている 彼女は、宮殿の格式張った しきたりや、贅沢な生活が嫌いだった だから、久しぶりに会った伊涼から香る故郷の匂いが、何だかとても懐かしかった―
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