蘭の咲く季節に

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ある日、北方からの使者が 来朝してきた 「北王・華具喜様が、王位を 太子様にお譲りになられました故、中華帝に御挨拶に参上仕りました」 「遠路からようこそお越し下さいました。すぐ此方からも 祝辞の使者を派遣致します」 粛々と行われる祝辞の儀の中、喧蘭は使者に問う 「御使者、その報は華王に お伝えしましたか?」 使者はニコリと微笑み答えた 「北王自ら出向かれました」 一瞬、懐かしい思い出に 頭が煌めいた 華王・秦政は幼い頃からの友人であり、広夢が最も信頼した 朋友である 今でも眼を閉じれば、あの時の光景が広がる 幼い頃の友人達は、今では国家の中枢となって活躍している もう二度と、会う事は出来ないかもしれない… それでも、彼らと交わした、 あの日の約束は忘れない これから先も…絶対に― 「あっおばあ様だっ!!」 「元気だったか、婆」 「あらあらぁ!可愛いお客様達だわ!!」 長い廊下で、喧蘭は二人の 小さな子供達を抱きしめた 「こんにちわ、お母さん」 長い髪を結った美しい女性が、にこやかに彼女に挨拶した 「尚は、ますます綺麗になったわね~!二人もお母さんみたいな人と結婚しなっ!」 「でもお母さんね、怒ると すっごく怖いんだよ~!」 尚は恥ずかしそうに笑った 「ねぇおばあ様!またじい様のお話してよっ!」 「弾のヤツ、そればっかり 言ってやがるんだ」 「兄ちゃんだって聞きたいって言ってたよ!」 「すみませんお母さん… この子達が、あんまりせがむ ものですから……」 喧蘭は二人を見つめ、眼を 細めて笑う 「二人共、後で私の部屋に おいで。ゆっくりお話聞かせてあげるから…」 幼い兄弟は眼を輝かせた その小さな瞳は何よりも、彼女の希望だった― 春の暖かい陽気、花々が彩る 小道を抜け、彼女は二人を 近くの川辺に連れ出した 「ねぇ蒼、弾、見て…」 川の瀬せらぎを聞きながら、 屈んで、泥にまみれた小さな石を拾って、二人の前に出した 「?この石がどうしたの?」 「ふふ…こうするとね…」 泥だらけの石を、丁寧に擦った すると―
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