蘭の咲く季節に

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「…うわぁ~すげぇ~!!」 小汚い石はたちまち、宝玉の 様な輝きを放った 「綺麗でしょ?」 その石をまじまじと見つめる 「どうして、こんなに綺麗な石になるの?」 「この石はね…この小さな小川の前に…大いなる川に磨かれてきたのよ……」 手にとって、瞳に映した 「不思議だな…何でもない石がこんなに美しい輝きをもってるなんて…」 「誰だってそう…この石みたいに…心に隠れた輝きを持って いるのよ………」 石から眼を離して、ハタッと 彼女の顔を覗き込む 「僕にもあるの?」 二人を強く抱きしめて笑い、 「もちろん!あるよ!!」 彼らは顔を見合わせて、顔を 綻ばして笑った 広夢がいなくなってから、随分時が経った 私達の子供達も、私を支える ために大人になった ―ねぇ広夢?アンタさぁ… いなくなって良かったんじゃ ない? そう考えては笑った ―大丈夫…来神も和歌も、 もう自分の力で、なんでも 出来るんだから― 空を見上げては呟いた アイツが残していったものは 確かに、ここにある 私達が歩んで来た道は― 決して輝いたものでは無かった でも、これから先の未来― 無限の光に照らされている 私達の夢は― 皆に受け継がれていく― それが私達の答えだ 「…さて…と…」 誰もいない部屋で一人、 伸びをする 音は吸い込まれて、辺りは 静まり返った ふと、何処からか声がする ―あれは私の声だ…… 皆を呼ぶ私の声が聞こえる― …私はこれからもずっと― 皆の笑顔を守っていく― いつも笑っていたアイツが 教えてくれた 誰かのために、何かをすると いうこと― もしもまた、もう一度アイツに会えるとしたら ―笑い会えるように― 汚れた雑記帳を開いて、彼女は裾をまくり上げた 「よ~しっ!今日も気合い入れて書こっかな!!」 ―この物語は〈中華唯一〉と 呼ばれた男と、喧蘭達の追憶の物語である―
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