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「なに、代理って?」
「ぁ、あああの、ボーカルの人が、今入院してて、あの、虫垂炎で…」
「ふーん」
虫垂炎ってなんだ?
ま、いーわ
「えっと、僕がリードギターで、…」
プログラムを渡されて、メンバーと担当の楽器、歌う歌を伝えられる。
知ってる曲ばかりで、カラオケで歌ったことある曲だ。
「その入院してるボーカルの人も、由紀さんならお願いしたいって言ってるんです。あの、お願いできますか…?」
ってか、私が歌上手いって誰が広めたんだっつの。
私がうんうん唸って考えていると、覗き込むように潤んだ目で、更に上目遣いで見つめてくる。
「…っ」
なんかこれ…昔CMで見たことある気がする。
どうする~ア~イ~フ~r
ガタガタンッ!
私の思考は、義孝が慌てて立ち上がったことに驚いて停止された。
通路に飛び出して、赤くなった顔を手の甲で押さえて後退りする。
慌てすぎ。
顔赤すぎ。
わかりやすすぎ…。
「か、かか帰るっ!」
出口に向かってまっしぐら。
……………惚れたな。
バンッという音とともに、ドアにぶつかりながら店を出て行った。
まこと君は驚いて、義孝の出て行ったドアと私の顔を交互に見た。
「ど、どどどうしたんですかっ!?」
「うーん…発作?」
「ヘ、ほ、発作!?」
慌てふためくまこと君。
あぁこの子、かわいい。
私は席を立って、三人分のお代をテーブルに置いた。
「歌の話だけど、私やるよ。上手くないから、期待しないでね?」
「ほ、ホントですか!?ありがとうございます!あ、あの、じゃあ、明日の放課後、メンバーと一緒に」
「わかった、教室来て?」
手を振って出口に向かうと、背中に何度もお礼の声が聞こえた。
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