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「大丈夫か?」
答えのないことには突っ込まず、思いやりに満ちた声で問い、軽く髪を梳く。一瞬の硬直の後、クレディアはうなずいた。
「……帰るか? 送るけど」
ラクトゥスに言われて、クレディアは顔をあげた。太陽はすでに姿を現していて、今は高みに昇ろうとしている。正午が近い。
ラクトゥスがそばにいてくれたおかげか、だいぶ長く眠っていたようだ。家に姿がなくて、姉達は心配していないだろうか。
そう、思ったクレディアはラクトゥスの言葉にうなずき、寝台から降りた。
「あの……ラクトゥス……」
寝台から降りたクレディアの手を取り、ラクトゥスはクレディアを外へ誘おうとした。途端、かけられた声。
「ん?」
「……ごめんなさい、いろいろ」
うつむいて、目を腫らしたクレディアはいう。弱々しい声に、ラクトゥスは眉を下げた。
謝るものの、クレディアは起き抜けの問いには答えようとしない。それ自体は別に構わないのだが、こう辛そうにされるのは本意ではない。
「……ああ」
なんて言葉をかければ、微笑ってくれるのか。わからないラクトゥスは、うつむく彼女の頭を撫でることしかできなかった。
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