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クレディアを家に送る間、二人は他愛のない会話を交わしていた。穏やかな空気が流れ、二人は終始にこやかだった。
しかし、その帰り道。一人で歩くラクトゥスの表情は重い。
愛した少女のために何かできないものか。彼の頭の中はそのことだけに支配されていた。
「……クレディ」
我知らず、ラクトゥスは呟く。恋愛感情に彩られたその声は、聞く者を魅了するほどに艶かしい。
それほどまでに、ラクトゥスはクレディアを想っているのだ。自分のすべてより、彼女が大切なのだろう。
真っ先に、自分を頼ってきてくれたことが嬉しかった。それなのに、何の力にもなってやれないことが悔しくてたまらない。
クレディアが何よりも大切だから、嬉しくて悔しいのだ。
(──おれにできることは、何だろうか……)
愛しいあの少女のために。
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