一介の盗賊

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朝の日差しを浴びてカナルタは目を空けた。 何も変わっていない。彼女は抱きしめていた猿のぬいぐるみを離して立ち上がる。しかし、眠気がまだつきまとっているのでまた倒れ込んだ。 寝た時の、昨日と同じ服で彼女は外へと出る。服を何着も持っているわけではなかった。 太陽が顔を出しているときのクラーの町の様子は夜とは違う。明るく無垢な活気に包まれた普通の光景だった。 しかし、闇先案内人の本部である三番街裏路地にあるレンガ積みの二階建ての建物に入った途端にそれは終わりを告げる。 エントランスには人があまりおらず、閑散としている。大体昼にいるのは一部の幹部や暇人だけだった。 見てみれば受付のケルーシすらいない。カナルタがケルーシの姿が受付にないのを見たのは初めてだ。 「あ、お嬢さん。こんにちは」 そう誰かが呼ぶ声がしてカナルタは辺りを見回した。すると明らかに闇先案内人には居るべきではないような人間がこちらに向かってにっこりしていた。 茶色の短い髪に丸い目と顔、口髭に少し隠れているが穏やかな笑みが広がっている。 黒いシャツに黄ばんだ短パン、茶色の革靴といった普通の服装。背中には大きな剣が2本交差していた。
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