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「独立……か」
カナルタは一人寂しく月とロウソクに照らされた暗い敷石の道を歩いていた。
思えばマキュアに頼りきりだった為に自分の家以外はクラーの町のどこに何があるかなどすら覚えていなかった。
「あたしには無理だよ。マキュア様……だって物心がついた時からあなたが一緒にいてくれたんだもの」
【あんたは19才だけど、体は15才で頭は8才だね】
マキュアの言葉が頭に嫌と言うほどに響く。胃に何かおかしなものが詰まっている不快な気分が押し寄せてきた。
うつ向きながらよたよたと通りの角を曲がる。そこには自分の家がある通りが広がっているはずだった。
しかしない。目の前には少し大きな黒く丸いものが。
カナルタは段々視界を上げていく。するといきなりこれまた丸い顔と目が会った。
「きゃっ!」
彼女はびっくりして後退りしたが、その拍子で思わず転んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
男がカナルタに駆け寄って助け起こす。
とても優しい感じの男の人だった。丸い顔に綺麗な黒い目が光っている。そして黒いシャツに隠れた丸い腹はまるで狸みたいだ。
「え、ええ……」
カナルタは頷いて見せたが、男はまだ不安そうな表情を浮かべている。暗くても、それが見ているこっちが情けなくなるようなものだという事が分かった。
「申し訳ございません。わたくしの不注意のせいであります。お足は大丈夫でしょうか?」
「ワタクシ……オアシ?」
カナルタは生まれて初めてのそんな言葉に戸惑ってしまった。
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