一介の盗賊

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「まあ……大丈夫ですよ」 マキュアのぞんざいな口調や態度に慣れていたカナルタからすれば目の前にいるぽっちゃりしたおじさんの話し方は異常極まりなかった。 「そうでしたか、それはよかった。しかし、なぜお嬢さんのような方がこんな夜に出歩いていらっしゃいます?……いや、その別に不審に思ったわけではありませんよ」 男は手と首を振りながら言った。冷静になって見ればあまりカナルタと背は変わらない。彼が茶色の短い髪のぶん少し大きい程度だ。 「そこの自宅に行きたくて」 「あ!すいません。わたくしが邪魔だったのですね。ささ、どうぞ。ご迷惑をおかけいたしました」 男は深々とお辞儀をする。カナルタは何が何だかわからない表情で裏路地にある自分の家へと入っていった。 カナルタに両親はいない。それに彼女は両親の顔すら覚えていなかった。なぜ物心がついた時にマキュアがそばにいてくれていたのかもわからない。 でも生活には不自由しなかったし、これからもする気配はない。何せマキュアは闇先案内人の看板娘だけあってカナルタを養えるぐらいの収入は入っていたし、家も用意してあった。 裏路地にある家なので粗末で一部屋しかないが、木組み自体はしっかりしている上に、生活用具も一揃いある。
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