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「ここを、出るの?」
一夜のぽつりと落ちた言葉を拾うように、クリスの視線が向けられた。
「お前を置いて、どこへ行く」
「じゃぁ、何のために?」
間髪入れずに問いかけた一夜に、クリスは押し黙ってしまった。
黙る必要性がない。
長い長いときを過ごす手慰みだと。
そう言うのだと思っていた。
けれど、彼の涼しげな声はいつまで待っても空気を震わさない。
なんだというのだろう?
そうまでして、隠しておきたいことなのだろうか?
苛立つ一夜を綺麗に無視して、クリスは黙々と食を進めていた。
むしろその沈黙に耐えられなくなったのは、栗栖のほうだった。「じ、じゃ、おれ、もう行くわ・・・」
客人として、大してもてなしもできないまま、栗栖はそそくさと去ってしまった。
それでもまだなお、クリスは沈黙を保っている。
「なんで、何もいわねぇんだよ」
ぎりぎりと、自分なりにきつい視線を浴びせかける。
数分経ち。
ひたすら目の前の朝食を、口へと片付けていたクリスが、箸を置いた。
綺麗に手を合わせ、「うまかった」と呟く。
それまで、無遠慮にクリスをにらみつけていた一夜も、その言葉に思わず「あ、うん、おそまつさまでした」と視線を和らげ答えていた。
気付けば、目の前の食事は、クリスをにらみつけていた無駄な時間の間に、冷め切ってしまっていた。
結局、ごまかされてしまった。と思い、一夜が再び箸を持とうとした瞬間。
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