秘め始め

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「ん・・・・・」 まだ、深夜。 肌寒さに目が覚めたらしい。一夜は隣にあるはずの温もりへと手を伸ばす。 けれど、いくら探しても手は冷たいシーツを撫でるばかりで、求めた人はいなかった。 がばりと音を立てて起き上がると、素肌に外気が直接触れてくる。 寒い。 思わず、羽織った布団を自分の身体に巻きつける。 シーツが冷たいということは、結構前からいないということだ。 時々、クリスはこうして、独り消える。 もちろん、帰ってきてくれるけれど。 昔の癖はなかなか抜けないのだろう。 ぼすりと枕へと頭を投げ出す。裸で探しに行く気にはなれない。 かといって、着替えもきっと辺りにちらばっていて、探すだけで寒い。 ここで、待とう。 鼻先を枕にすりつけ、大きく息を吸い込む。 太陽の匂いと、清清しい樹の香り。 彼の人は、その存在とは裏腹に、まとう匂いはこの森そのものだ。 シーツに身体をすりつけ、甘えるようにくんくんと匂いをかぐ。 身体一杯に吸い込んだクリスの香りに、少し満足して、はぁっと息を吐く。 吐き出した息と共に、胸の奥から湧き出してくるもの。 一夜は、瞳を強く瞑り、それをやり過ごそうとした。 独り、残された夜は、時々不安に苛まれる。 闇が大きく自分に覆いかぶさり、包んでしまう。 そこから抜け出せず、もがくばかり。 早く。 早く帰ってきて。 夜が明ける前に。 全てが明るみになる前に。 オレの元へ。
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