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森は悠久の時を過ごしている。
外の世界も、うちの世界も、変わらず。
ただ、そこに・・・
「よし!」
今日の朝食は白米のご飯にお味噌汁、焼き魚と卵焼きだ。
クリスが水を汲みに行ってくれたので、一夜は朝食当番だ。
最初の頃に比べて、一夜だけの負担というのはあまり無くなり、クリスも手伝うようになっていた。
クリス曰く、
「家庭というのは、助け合い」だそうだ。
その言葉は、いつも一夜の心をくすぐる。
配膳するために一夜が食卓に向かうと、水汲みを終えたクリスが難しい顔で本を読んでいた。
「メシできたから、本読むのやめろよ」
祖父母に育てられたためか、一夜は食事中のマナーにうるさい。
食事中に本を読んだり、テレビをみたり、そういうことは行儀が悪いと懇々と教えられ、体に刻まれている。
クリスは一夜の言葉に、しぶしぶ本を置き一夜の差し出す茶碗を受け取った。
今更ながら、健康的な吸血鬼だ。
朝、決まった時間に目覚め、三食食事をとる。
血を飲まなくなったためか、最近は食にも興味を示し始めた。
今、彼の中ではまっているのが和食だ。
栄養バランスに優れていて、なおかつ胃にやさしい。
吸血鬼の言葉とは思えない。
和食と吸血鬼というミスマッチに、内心ほくそ笑みながら一夜は脇に置かれた本に目をやった。
読めない言葉のタイトルだ。見たことがないわけではないが、学校で習うような類の言語ではなさそうだった。
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