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「何読んでんの?」
器用に箸を握り、魚を解し始めたクリスに一夜は興味本位から問いかけた。
けれどクリスは、あぁと言ったまま答えず、魚との格闘を再開した。
何で隠すんだ?
返って気になり始めた一夜だったが、何度見ても表紙の文字からは意味を汲み取れなかった。
仕方なく、本のことは諦めて、目の前の卵焼きをぷっつりと割り、口へ運ぶ。
我ながら上出来だ。
だしがじゅわっと口いっぱいに広がり、食が進む。
にっこり笑いながら、箸を進める一夜をこっそり見つめて、クリスは口の端をあげた。
「・・・なんだよ」
笑っているクリスに気付いた一夜は、箸を止めて問いかけた。
なんだか自分が笑われているようで解せない。
「別に」
「っ・・・笑ってただろ!」
のらりくらりと質問をかわすクリスに、箸を置いて突っかかった。
「子供、だな」
クリスは箸でほぐした魚をつまむと、口を大きく開けて固まったままの一夜へ放り込む。
条件反射で、口に入ったものを咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。
「おいしいか」
にこやかに感想を求められれば、「それは自分が作ったのだ」と思っても、思わずうなずいてしまった。
「あーあ、なんなの、一体。いつまで新婚気分なんだよ!」
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