遠き日の為の約束

3/7
前へ
/13ページ
次へ
「何読んでんの?」 器用に箸を握り、魚を解し始めたクリスに一夜は興味本位から問いかけた。 けれどクリスは、あぁと言ったまま答えず、魚との格闘を再開した。 何で隠すんだ? 返って気になり始めた一夜だったが、何度見ても表紙の文字からは意味を汲み取れなかった。 仕方なく、本のことは諦めて、目の前の卵焼きをぷっつりと割り、口へ運ぶ。 我ながら上出来だ。 だしがじゅわっと口いっぱいに広がり、食が進む。 にっこり笑いながら、箸を進める一夜をこっそり見つめて、クリスは口の端をあげた。 「・・・なんだよ」 笑っているクリスに気付いた一夜は、箸を止めて問いかけた。 なんだか自分が笑われているようで解せない。 「別に」 「っ・・・笑ってただろ!」 のらりくらりと質問をかわすクリスに、箸を置いて突っかかった。 「子供、だな」 クリスは箸でほぐした魚をつまむと、口を大きく開けて固まったままの一夜へ放り込む。 条件反射で、口に入ったものを咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。 「おいしいか」 にこやかに感想を求められれば、「それは自分が作ったのだ」と思っても、思わずうなずいてしまった。 「あーあ、なんなの、一体。いつまで新婚気分なんだよ!」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

314人が本棚に入れています
本棚に追加