衣野 慎吾

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あたしは限界まで爪先立ちをしながら首を伸ばしに伸ばし、正面口前に蔓延(はびこ)る女子達のリボンの色を確認してみた。 1年生も2年生も3年生もいて、ざっと数えても20人は居る。 「あの人って彼女いるんですか!?」 「いないいない!女よりバスケってタイプだから!」 「キャー!マジですかー!?」 入学したばかりの1年生と上級生がお兄ちゃんの話題で和気藹々としている。 ていうかお兄ちゃんはバスケ一筋って訳じゃなくて、単に好きな相手がいないだけなんだけど。 「汗流してても爽やかー!」 「王子様って感じー!」 爽やか? 王子様? ブッ! 女子軍団の夢見がちな言葉を聞くと吹き出さずにいられない。 私生活のお兄ちゃんを知れば、そんな言葉はまず出ない。 あたしは口元を押さえて笑いを堪え、もう一度体育館の中のお兄ちゃんに視線を戻して見た。 「松岡もっとそっち!」 「はい!」 「佐々木!ディフェンス甘いって!」 「はい!」 コート内で部員達に指示するお兄ちゃんは真剣そのもので、男子バスケ部主将の一面を初めて目の当たりにした。 へえー、あのお兄ちゃんがねぇ。
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