浅羽 夏樹

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    中学生になって約1ヶ月程経った、ある日の放課後。 雨が激しく地面を打ち付ける土砂降りで、傘を持って来なかったあたしは玄関前に立ったまま帰れずにいた。 朝の天気予報では一日中晴天マークだったし、傘を持って来ている生徒は皆無。 頭に通学鞄を乗せて土砂降りの中を走って帰って行く人達、家族に迎えに来てもらっている人達ばかりだ。 うちはパパもママも仕事中なので誰も迎えに来てくれないし、いつ雨が止むかも分からないのに待ってもいられない。 お兄ちゃんは部活だし、傘も持って来ていないに決まってる。 玄関前で暫く悩んだ結果、通学鞄を頭に乗せて全力疾走で帰る事を決意。 ここから家まで走って約4分。 よし!帰るぞ! 「彩芽ちゃん。俺の傘の中に入んなよ」 玄関から右足を外に出した時、背後から声を掛けられた。 この声を知ってる。 低くて甘い声、優しい話し方。 胸をときめかせながら振り返ると、折り畳み傘を持ってそこで微笑んでいた人は。 「家まで送るから一緒に帰ろ?」 やっぱり浅羽先輩。
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