衣野 慎吾

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    とある年の春。 あたしは明智(あけち)小学校を卒業し、明智中学校に入学した。 ついこの間まで小学生だった子供も、ブレザーの制服を着ると何だか妙に大人っぽく見える。 憧れていた制服を着熟(きこな)して大人の階段を昇る気分。 しかもあたしは背が高いから制服を着ると余計に大人っぽくなるし、自分で思うに中3でも通用する気がする。 「ちょっと見ろ、あの娘!」 「うわ、くっそ可愛くね!?」 「赤のリボンしてるって事は1年だな」 入学式の翌朝、学校の人達が廊下を歩くあたしを舐め回す様に見つて噂話をしている。 新入生と教員と保護者しかいなかった昨日の入学式もこうだった。 「何かさ、誰かに似てない?」 「そっか?芸能人でも滅多にいないレベルだぞ」 「いや芸能人とかじゃなくて、もっと身近にいるような……」 4階にある1年生の自分の教室に向かう最中も、見た事も無い先輩達にずっと見られてる。 でもこういう事には慣れてるから、構わずマイペースに校内を歩き続けた。 「あーっ!分かった!衣野だ!衣野に似てね!?」 はい、正解。
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