背中あわせ

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 そいつとは、産まれてからの付き合い。  親同士が知り合い、否、親友同士という関係で、家も徒歩3分の近場で、だから幼稚園に入る前から一緒に過ごしてきた。  何をするにも一緒だった。小学校に上がって、そいつが初潮を迎えるまで、ことあるごとに泊まりあって、風呂も一緒に入っていた。  中学に入って冷やかされもした。登下校も一緒。二人で買い物に街に出て、カップルに見られるほどの仲だった。  先に恋をしたのは俺だった。  男なら当たって砕けてみろと、背中を叩いてくれもした。男の俺よりも男らしく、男の俺よりも勇ましかった。  高校は、偶然同じ場所だった。家から一番近い場所。ただそれだけの理由で、俺もそいつもそこを選んだ。  部活やらバイトやら忙しくても、彼氏彼女ができたとしても、お互いの距離は変わらず、大きな喧嘩もなく過ごしてきた。  失恋した時は、決まって俺の部屋で泣いていた。俺はただそいつの話を聞いて、慰めて、笑えるようになるまでには太陽が顔を出していた。そんな日が、何度となく繰り返される。  友人には、恋人よりも恋人らしいと言われたこともあった。お互いが恋愛感情を持っているのではないかと、しつこく問われたこともあった。  俺はそいつを、一度だってそんな目で見つめたことはなかった。年々女らしさを身に纏うそいつに、美しさは感じれど、だからと言って恋だの愛だのの感情は生まれない。  それはそいつも同じこと。  ただ俺は、そいつが悩めば話を聞くし、虐めにあえば守ってやった。大事な存在だということは、確かだった。  親友。そんな簡単なものじゃない。俺たちが築いてきたものは、そんなものじゃない。  恋人よりも深く、家族よりも近く。それが俺たちの存在。  そいつが謹慎を下されて暫くして、俺が帰るよりも先に、そいつは俺の部屋で縮こまっていた。  何があったかなんて聞かない。ただいまと声をかければ、沈んだ表情を隠さずおかえりと言う。  俺たち二人の間で、感情を隠すなんてことはなかった。恋をすればいち早く報告し、すべての過程を共有する。俺の前では、気の強いそいつも声を上げて泣く。 「好きな人ができた」  そんな言葉さえ、俺にはどうでもよかった。幸せになってくれるなら、それ以外望まない。  見定めて、見届ける。抱き締める代わりの背中あわせだ。何があってもここにいる。  この位置は、誰にも渡さない。
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