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この一曲を弾き終えると、聴衆はいつもの倍位いた。
立ち上がって礼を言い、楽器を片付けようとする。
すると何処からともなく一つの掛け声。
「アンコール、アンコール…」
思わず結城の顔を見る。結城はニコッと笑い
「せっかくだからやろうよ…"sei"?」
と言って、鞄から一枚の紙を出した。
「あっ…それ………」
「昨日落としてったよ。昼会った時に返せば良かったんだけど、忘れてて…」
それは私の書いた楽譜――先程弾いていた曲の楽譜だった。曲自体は出来ていたけど、歌詞はまだ半分程しかついていない。
「後半の歌詞は即興で付けちゃった。ごめん」
「いや、それは別にいいけど…即興って凄いね」
「そう? それよりもう一曲、やろうよ」
私は力強く頷くと、ピックを握り締めた。
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