儚い花

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―ホスピス― 末期ガンの患者達が抗ガン剤などの治療を行わずに、肉体的・精神的に安らかな死を迎える場所。 そこに、一人の若い女性がいた。 彼女の名前は紗綺(サキ)。 二十代前半という若さだが、病弱で、体はガンに侵されていた。 「よう、紗綺」 俺はほぼ毎日ここを訪れている。仕事に追われて大変だが、何時会えなくなるか分からないから… だからどんなに疲れていても絶対に来るんだ。 それに… 「あ、悠斗。また来てくれたんだ」 そう言って微笑む紗綺を見れば疲れなんて何処へやら。 「お前本当にここが好きなんだな」 "ここ"とは、ホスピスの中にある温室の事だ。 このホスピスは、とにかくデカい。設備も調っているし、この温室の様な場所も沢山ある。 「うん、だってここに居ると落ち着くんだもん」 「本当に花が好きなんだな」 「花って儚いよね。だから綺麗に咲き誇れるのかな」 そう言う紗綺の命も、そう長くはない。 あと一年保つかどうからしい。 「部屋に戻るぞ」 なんだか涙が出そうになって、それを隠す為に歩き始めた .
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