心、音にのせて

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「ねぇ、もう一回弾いてよ」 これが私と彼の出会いだった。 * * * 冬の夕方六時。といっても暖冬の為、それ程寒くもない。…暗くはあるが。 道行く人は寒さに頬を赤く染め、微笑む男女は手を繋ぐ。 そんな中で私は、水の出ていない噴水の前でケースを開き、一本のアコースティックギターを取り出した。 私は週に二・三回、この公園に訪れては気晴らしに数曲弾いて行く。 私がこの公園で弾く事にしたのは、知り合いが訪れる事は無いといってもいいからだ。何故なら、此処は私の行っている高校からは随分と離れているし、デートスポットにするにしては錆びれているからだ。 いつもどおりに手際よくセッティングをする。セッティングといっても、ケースを開いたまま前に置き、楽器を構えるだけだが。 そして、何を弾こうかと思案する。ふと空を見上げると、様々な星が輝いていた。星…なら……と、とあるアーティストの曲をバラードにアレンジしたものを弾き始める。 弾き始めると、私には他の事が全く目に入らなくなる。ただ曲に没頭する。緩急・強弱を付けて弾き、頭の中では歌詞を思い浮かべる。
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