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 打者が三振に倒れたと同時に、スタンドから大きなため息が聞こえた。そしてスコアボードに表示されている八回裏の欄に、0という数字が新たに表示される。     「さあ、下を向くな。まだ試合は終わってないぞ」      監督が手を叩きながら言う。選手たちのやる気を上げさせようとしてのことだろうが、この状況では監督がどんなに頑張ったとしても全く上がらない。     「茂樹、どうした? 大丈夫か」   「ああ。ちょっと疲れただけや」      ベンチに座ってぐったりしていた茂樹を心配してくれた松本に、彼はとりあえず笑顔を作って答えた。    投手である松本をこれ以上心配させるわけにはいかないので、茂樹は仕方なくグローブを持って立ち上がる。     「おい、茂樹。それは俺のや」   「え? ああ、そうやな。悪い……」      色が似ているため、隣にあった控え選手のグローブと間違えてしまっていたらしい。茂樹は今度こそ、しっかり自分のものと確認してからグローブを再び持った。    グラウンドに目をやると、もう自分以外の八人は守備についている。松本の投球練習も、そろそろ終わりそうだ。茂樹は慌てて、自分のポジションであるセカンドへと走った。    グラウンドに目をやると、もう自分以外の八人は守備についている。松本の投球練習も、そろそろ終わりそうだ。茂樹は慌てて、自分のポジションであるセカンドへと走った。     「まったく……。さっきから走ってばっかりやな」      走りながら彼は呟く。さっきからというのは、八回裏の攻撃時からという意味だ。
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