第一章 過去を知る男

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       6 「失礼します。」 醍醐に呼び出された黒田良介は所長室に入った。 「君、今は何か調査が入ってるのか?」 「ええ、浮気調査が一件。先週から始めました。あと2日程で終わりますが。」 「あの、頼みたい事があるんだ。」 「何でしょう?」 普段はこれといった頼み事をしてこない醍醐に、黒田は不思議な感覚になった。 「例の社長からのある重役の身辺調査の依頼がきていてね。君にやってもらいたいんだ。」 「本当ですか?」 黒田は驚いた。そんな大きな仕事を任されると思わなかったからだ。 「ああ、社長の信頼を失わない様に絶対にうまくやってくれ。今夜からだ。」 「はい。しかし、今の依頼はどうすれば…」 「大丈夫。代わりに私がやろう。後で資料を渡してくれ。」 そう言うと醍醐は立ち上がりデスクから大きめの封筒を取り、黒田に渡した。 「これがこちらの資料だ。良く目を通しておいてくれ。」 「わかりました。代わっていただいてありがとうございます。」 「私も探偵らしい事しないとな。」 醍醐は笑顔になり、黒田の肩を叩いた。 「もういいぞ。仕事の準備に入ってくれ。」 「はい。失礼します。」 黒田は一礼をして部屋を出た。 これで準備は完璧だ…醍醐は再び椅子に腰掛け、煙草に火を着けた。
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