第一章 過去を知る男

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       7 19時34分、醍醐は浅香まりさが自宅マンションから出てくるのを近くに停めた車の中から確認した。 「聞こえるか?」 醍醐はイヤホンに繋がったマイクに話した。 すると目の前のまりさが耳を押さえて辺りをキョロキョロしている。 「キョロキョロするな。自然でいろ。女優なんだろ。」 そう言うとまりさはキリッと向き直し、歩き始めた。 「はい。でもこうなるとスパイになったみたいでうきうきしちゃって。」 「余計な事を言うな。言われた通りに動くんだ。」 まりさは「はい」と小声で言った。 醍醐は車をゆっくりと進めた。 20時5分、まりさがイタリアンレストラン「ロゾリノ」前にたどり着いた。 大きな道路沿いにあり、ガラス張りになっていて店内は外からでもある程度見渡せる。醍醐は反対車線に車を停めた。 「店に入るんだ。」 「ちょっと混んでますよ。」 「入るんだ。一人なら大丈夫だ。窓際に行きたいと伝えるんだ。」 「わかりました。入ります。」 そしてまりさは店に入った。店員と何やら話しており、窓際の二人席に案内された。
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