第二章 か細い糸をたぐりよせ

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       9 醍醐が立ち去ってから一時間も経っていない頃、さっきまで静かだった港はパトカーと刑事達で活気付いていた。 「この時期の海辺は本当に寒いね。何で事件が起こるのかなぁ。」 袋を提げながら小走りでやって来た志津里は、両手を口元に当てて息を吹き掛けていた。 「本当ですね、この冷たさは体の芯にきます。」 堀谷も体を震わせながら返す。 「これ良かったら食べなよ。このコロッケ、すごく美味しいよ。」 志津里は袋から紙に包まれたコロッケを取り出して、堀谷に渡した。 「ありがとうございます。」 堀谷は紙を開けてコロッケを頬張った。 「いやぁ、美味しいです。」 「でしょ?娘が最初買ってきてさぁ。女子高生の間で人気なんだって。何か変だよね、普通は女子高生の間で流行るのはパンとかスイーツなのに…僕も食べよう。でもスイーツだけ何で複数形なんだろう?例えばコロッケはコロッケなのに。ていうよりコロッケの複数形は何ていうんだろうね?知ってる?」 志津里はコロッケ食べながら、下らない話を延々と続けている。ただそんな彼の雰囲気が殺人現場という暗く緊迫した場所にいる人間の心を和ませる。
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