第一章 過去を知る男

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       1 その男が現れた事は醍醐昌利にとって予想外であった。 村上芳正…醍醐のかつての仲間だった男。醍醐は若い頃は刑事だった。しかし裏では世間一般でいう「やばいこと」に手を染めていたのだ。そしてある時、仲間である別の男を殺してしまった。正確には事故だったが、その男の死に醍醐が関わった事は明白であった。 そんな昔の事を忘れさえしていた頃、村上が突然目の前に現れた。ある時を境に刑事を辞めると共に「やばいこと」から足を洗い、まともにやってる醍醐にとって痛手だった。 奴を殺すしかない…醍醐は短絡的ながらもその発想に至った。 最初は小さな事務所から探偵業をスタートさせ、どんな依頼でも必ず引き受けた。一つ一つの仕事を確実にこなし、結果を出す事で事務所を大きくしていった。今はちょっとしたビルを構えるほどになり、醍醐は「成功」を手に入れる事ができた。 あんな男の為に今の生活を棒に振る訳にはいかないんだよ…醍醐はデスクの引出しから黒く光る拳銃を取り出し、じっと眺めた。
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