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「テレビ見ないもんでねぇ。結衣ちゃん、料理上がったよ。」
大将ははつらつとした声で奥の彼女に呼び掛けた。
「結衣ちゃん?偶然なんだなぁ。」
「偶然って?」
「いや、別に…面白いなぁと思って。」
「大将、何上がりました?」
そんな二人の間に<ガッキー>が元気良く入ってきた。
「これ、五番テーブルに親子丼とカツ丼ね。」
大将がカウンターに丼を二つ乗せた。それを<ガッキー>がお盆に移した。
「これ、ふたしてありますけど、どっちがどっちでしたっけ?」
「だから、赤い丼が親子丼で、黄色い丼がカツ丼ね、よろしく。熱いから気をつけて。」
「わかりました!」
例にならって<ガッキー>は相変わらず愛想の良い挨拶を言った後、お盆を持ち上げ、五番テーブルに向かった。
「さすがに元気いいね。」
「いいでしょ。雇って良かったなぁ感じですよ。まあちょっと仕事は覚えたてで、色で分けてる丼の違いもまだ曖昧で。」
「まあね。でもそんなの僕も知らなかったし、ふたしてたらわからんでも無いなって感じだよ…」
「そうは言ってもこっちも工夫してんすよ。」
「…大将、これでいいんだ。」
志津里がぽつり呟いた。
「何がです?」
「わかった、僕が間違ってたんだ。僕の勘が正しかったら、これで事件は解決だ。」
志津里は解放された様な笑顔を見せた。
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