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事件はその夜起きました。
遊び疲れた私達子供は寝る前にトイレにも行かず爆睡状態でした。
真夜中近くなって、私はトイレに行きたくなり目を醒ましました。大人も子供も皆が寝静まり聞こえてくるのは波の音だけ…
トイレは小屋の外にあり、靴を履かなくては行くことができず、月明かりだけでは、暗くて自分の靴が何処にあるのか、電気のスイッチが何処にあるのかすら全くわからず、そうこうしているうちにトイレに行きたい衝動が抑え切れ無くなり、とりあえず近くにあった誰かのサンダルを履いてトイレに行くことにしました。
ところが用をたしてスッキリした私が小屋に戻ってくると、小屋の中は大騒ぎになっていました。
私が履いて行ったサンダルは非情に几帳面な近所のおじさんのサンダルで、そのおじさんが自分のサンダルがないと全員を起こして発狂していたのでした。案の定私は両親にこっぴどく叱られ布団に潜り込みどうしてそんな事くらいでそこまで叱られなくてはならないのか理由がわかりませんでした。子供心に唇を噛み締め、穴があったら入りたい…死んでしまいたい…消えてなくなりたい…と心底思いました。
暫く独りしくしく泣いていると、ふと辺りが水をうった様に静まりかえった事に気づき、そっと布団から顔を出して辺りを見回しました。
私以外の全員が熟睡しているようでした。
また波の音がきこえはじめたかと思うと、足がガタガタなりはじめました。
「ま…まさか❗⁉」
そうそのまさかでした。波の音に混じって『ピチャ…ピチャ…』と波打際を歩く足音が聞こえたのです。その足音はまるで耳元で鳴っているかの様にハッキリと聞こえました。そしてその音は段々と大きくなり、コチラに近づいてきているようでした。
恐る恐る小屋の窓から海を見ると、ボウッと白い人影が明かにこちらに向かって近づいて来ていました。
私は窓の下に身を潜め、息を殺し、白い人影がコチラに来ない事を祈りました。
けれど足音は段々と近づいてきます。
あの人は、きっと私と同じ思いをしたのかもしれない…恥ずかしくて、辛くて、悲しくて、生きていたくなくて…。
けれど、私は今その魂に直面して生きていたい❗と思いました。死にたくない❗とも思いました。
そう強く思ったとたんに足音がピタリと止みました。
しばし空白の時間が流れました。足の震えはまだおさまっていない…。まだいる…
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