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幸福なひと、
優しくしないで下さい。
幸せそうに笑いかけ、さも当然のように手を差し出す。
その手が私には恐ろしい。それは贋物に差し出された手。
幸福なひと、
泣かないで下さい。
拒絶された手を見比べて悲しげに眉を寄せ、その美しい瞳から一粒雫が落ちた。
それが悲しみか痛みか私には分からない。
幸福なひと、
あなたは何も分かってない。
私はそんなに不幸でしょうか。慰めるほど可哀相でしょうか。
あなたが作り上げ、私に塗布した甘い不幸を、あなたの赤い唇が舐めた。
幸福なひとよ、
あなたは残酷に優しく、愚かにも傷つきやすく、無知で、だからこそ。
殺したいほど愛しい。
私は不幸ではありませんが、あなたが塗りたくったそのメッキを、あえて剥がさないでしょう。
優しいあなた、脆いあなた、無知なあなた、その手を私は拒絶するけれど、甘い甘い偽りの蜜を餌に、あなたは私のもの。
私は嘲笑った。
そうするときっと、あなたが私を見て笑う。
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