魔法使いは花になる

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 いつかの言葉さえ美しく、教師が人間に優劣を付けなければ、その魔法使いは今も、凛として優しい心で誰かを救っていたかも知れない。  あの日、教師が自らの想いを「愛」だと認める勇気があれば、その魔法使いは今も、美しく笑っていたかも知れない。  ふたりの魔法使いは、高い魔力に不相応な程、あまりにも自らの想いに不器用だった。 「エマ」  背後からかけられた言葉に振り向いたエマと言う少女の視線の先には、彼女に魔法を教授した、グリッツィーと言う教師がいた。 「お久しぶりです、グリッツィー先生」 「こんな場所で再会するとは、お互い想像も付かなかったな。元気にしていたか?」 「おかげさまで、元気です。卒業式以来ですから、2年ぶりですね」  エマは、周囲の風を無力化する魔法を使って、この街で一番高い時計台に降り立ち、人々や車が行き来する景色を見下ろしていた。  あと数十分で明日になると言うのに、祝祭の季節に浮かれているのか、人波は絶えない。 「付近で魔力が断続的に使われていることに気付いて来てみれば……。夜だから、高い場所だからとは言え、下等人物が見ていないとは限らないだろう」 「……魔法の使えない人間を、『下等人物』と言うのは止めて下さい、先生」  エマの言葉に、グリッツィーは黙り込んだ。  グリッツィーはいつもそうだった。  普段から、「我々魔法使いは『上等人物』で、そうではない人間は『下等人物』だ」と言うのが彼の口癖だった。  魔法を上手に使いこなせない生徒に向かって、「下等人物にもなれない半端者」と言い切ったこともある。  グリッツィーから「半端者」と言われた生徒は行方不明になり、その姿を見つけ出すことは誰にも出来なかった。  彼は、何らかの大きな対価を差し出すことによって“無形有質”と言う高度な魔法を使えるようになり、自らを核にして人間ではない何らかの物質に立ち替わった後、無形有質で作られた物質の性質を逆手に利用して姿を消したのではないかと言われている。  黙り込むグリッツィーに、エマは言った。 「先生……私は、もうすぐ魔力を失います」 「……それは、本当なの、か?」
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