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あの日の言動に、罪悪感がないわけではなかった。
「……最後に先生に逢えて、良かったです。偶然でも、良かったです……私は、グリッツィー先生の生徒で、幸せでした」
「エマ……」
「私はずっと、先生に認められたくて必死でした……。魔力を失って、あのときのような優等生でなくなってしまうのは……『ただの人間』になってしまうのは、嫌なのです……。さようなら、先生」
大時計が0時を指そうとしている。
「エマ!」
エマは唇を寄せた指を足元に押し当て、時計台周辺を無風化していた魔法の解除10秒前を宣告した。目を閉じる。
「無形有質!……世界の花となり、反発風に乗って舞い散れ!我が肉体を無形有質の核とし、主に対価として我が寿命を差し出す!」
「エマ、止めろ!」
エマを抱き止めようとした瞬間、グリッツィーは、魔法によって拘束されていた風が解き放たれ、周囲に突風となって散らばる準備をしているかのような……きぃん、と乾いた音を聞いた。
エマの身体が青白く光る。
時計の針は総て、天に向かって12を指した。夜のため時計台の鐘は鳴らず、日付は静かに変わった。
強い反発風に乗って弾け飛ぶように、彼女の身体は世界中の様々な花に変わり、四方八方に散っていった。
グリッツィーは、エマの魔法の勢いに弾かれて尻餅を付き、そのまま時計台の屋上に拳を叩き付けた。
「エマ……っ」
エマは最後に残された力の総てと自らの身体を使い、最大級の無形有質を起こした。
時計台を取り囲むようにして栄えた大きな街に、空から花が降り注ぐ。
夜の街に歓声が響き渡った。
何も知らない人間達は、口々にそれを「祝祭の夜の奇蹟」と呼び、空から花が降った出来事は後に長く語り継がれることになるのだった。
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