魔法使いは花になる

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「エマ……」  脱力したグリッツィーは、エマの肉体から無形有質で作られた花の中から、ひとつだけ屋上に残っていた愛らしい花を手に取った。  愛おしむ眼差しで、様々な角度からそれを眺めてから、彼は自らの全魔力を使って“永遠個有”を宣告した。 「……永遠固有。無形有質の魔力を無効とし、ここにこの花の永遠固有を宣告する。対価に……我が魔力の総てを主に捧げよう」  花は青白く輝いた。  青白い光は、主に対価が認められ、魔法が確実にかかった証である。  エマの魔力は、グリッツィーの強い魔力に相殺され、総ての花が消えて無くなっても、彼が手にしたその花だけは、消えてしまったり、形を変えることは永遠に無かった。  グリッツィーは、魔法が使えなくなって、魔法学校の教師として生きられなくなったとしても、自らが言ってしまった「下等人物」になったとしても、エマが降らせたその花が、一つ残らず消えてしまうのは……どうしても堪えられなかったのだ。 「エマ……魔力のない人間も、絶対に『この世の無駄』などではない……。君は魔法を失っても、優しく美しい女性として生きて行けたはずだ……俺が……下等などと言って人間を差別しなければ……君は……」  胸にふつふつと湧いてきたその感情が純粋な「愛」なのかは、わからない。  一度込み上げてしまった涙はそう簡単に止まらず、グリッツィーは小さな花を手に静かに泣いた。  冷静沈着な教師が、人生でただ一度だけ、心のままに魔法を使って残したその美しい花は…… 「桜」と呼ばれる、遠い異国の花であった。
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