1)信じる指。

10/11
前へ
/111ページ
次へ
薄いグレーのトタンを貼り合わせた不様な小屋を思わせる建物。 ―ギギッ ドアノブは思いの外、重く開けづらかった。 線香の匂いが立ちこめる一間の中に女性が10人程、俯き正座をしていた。 全員、左手の小指に包帯を巻いた姿が異様だった。 奥には小振りな祭壇が祭られていた。 恩人は一礼してから靴を脱ぎ一間へ入る。 もう1度礼をして彼女の方を振り返り、入室を促した。 『此処に居る皆、貴女の味方。仲間、同志として助け合って生きている。』 女性達は一斉に顔を上げ、均一な笑顔で彼女に、 「おかえりなさい」 と、言った。 其処からは、各自が持参したであろうお茶を啜り、菓子を食べながら各々の身の上話や、他愛の無い世間話、所謂主婦の雑談で盛り上がった。 自身の話もし、助けられた礼を言うと数名は涙を浮かべ、他の数名は笑顔で、 「良かった」 「一緒に頑張りましょう」 「おめでとう」 等と言ってくれ、更に感謝の念が強まり、あぁ確かな理解者だ、と感じられた。 全員が一頻り話し終え、打ち解けた頃、彼女は祭壇と包帯について聞いてみた。 恩人は微笑みながら答える。 『祭壇は団結の象徴。私達は神に生かされて居る事に気付き、感謝出来る尊い存在。』 『神はこの世に姿を変えて存在している、お金よ。』 意外な言葉だった。 よく宗教家は、無償の愛や、欲を捨てる事を説いているのに。 神がお金? 困惑する彼女に恩人は続ける。 『哀しいけれど、時代がそうさせている。命を形成する一部がお金。欲を満たす為では無く、助け合いの道具として。』 『現に貴女を助けられたのは此処に居る皆が、その命の欠片を分けてくれたから。』 『皆、包帯を取って見せて。』 ―シュルリッ ―ハラリッ 小指の爪が全て無かった。 『神託。夢で見たの、左手の小指の生爪を剥ぐ事が信仰の証になると。恐ろしいと思った。けれど、神にしか理解出来ない愛の形なのだと受け入れた。』 『現に貴女は今、神を通した私達に救われて生きているでしょう』
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加