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警官達が去り、稍あって夕食の時間が訪れた。
今夜の食事はハンバーグとポテトサラダ。
だが、母親は犬の件で食欲が無いのか、コンソメスープを啜る程度。
マリコは何事も無かったかの様に、用意された食事を頬張り、コーラを飲んで居た。
「このトマト母さんの?」
サラダの上に乗っていたミニトマトを摘み、不意に問い掛けた。
母親はトマトを見つめ、フッと鼻から息を吐いた。
「そう、良い出来でしょ?」
「うん。スーパーのより甘い。無農薬っての?良く解んないけどウマッ」
―ブチュリッ
トマトを口に運び、噛み潰した。
1ヵ月程前、父親は蒸発した。
前々から若い女に入れ込んで居たのは知って居る。
ソイツの元へ行ったのだろうと母親は泣いて居た。
今まで何度か別れ話が持ち上がり、離婚届に双方共、署名と捺印を済ませては居たが、提出される事は無く、棚に閉まわれて居た。
マリコが成人するまでは、お互いに耐えようと。
しかし1ヵ月程前、父親は離婚届と共に消えた。
それからすぐに、母親はベランダに小振りなプランターを幾つか置き、家庭菜園を始めた。
最初はすぐに枯らしたりと苦戦して居た様だが、近所に詳しい人が居て、教わる様になってからは良く成長し、旨い野菜が穫れた。
母親はその人を[師匠]と呼んで居た。
父親から家に金が入らなくなり、パートを掛け持ちしながらの生活は楽では無かったが、マリコと野菜の成長を見るのは心の支えであり、苦では無かった。
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