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野菜が巧く穫れる様になってからは、鬱ぎがちだった母親に笑顔が戻り始めた。
(師匠に良い肥料作って貰ったとか喜んでたっけ…)
コンソメスープの中の鶉の卵を、スプーンで泳がせる母親を見ながら、マリコは食事を完食した。
(離婚届、受理すんなって役所に申請してんだっけ?執念か情念か知らないけど女ってメンドクセー)
母親の女の部分に心の中で毒づきながら、食べ終えた食器をシンクへ運ぶ。
ふと出されたままの俎板に目が行った。
(これ、双子のミニトマトじゃね?珍しー!)
「母さーん、このトマトくっ付いてんじゃん!」
「食べちゃ駄目よ!!!」
卵を泳がせて居た母親が、般若の様な形相でキッチンへと向かって来た。
「あ…うん…うん。食わないから写メ、写メ…撮らして…」
マリコの動揺した様子に我に返った母親は気まずそうに話し出した。
「ごめんね、大きい声出して…その…巧く行ってた頃の父さんと母さんみたいだと思って取って置いたものだから、つい…」
仲良く身を寄せ合うミニトマトに、在りし日の夫婦の姿を見ていたのだろう。
(浮気されて出てかれたのに、未練あんだ…)
ミニトマトを見つめる母親に少しだけ切なくなり、
「つーか双子の卵なら見た事あるけどさぁ、トマトって!初だし!てか使わなかったなら冷蔵庫入れなよ鶉の卵ぉ。あ、お菓子食べながら料理とかヤバくない?太るよ!まぁ良いや、写メんね♪」
と、饒舌に捲し立てた。
トマトを写すマリコを見ながら「そうだよね」と呟き、母親は夜のパートに向かう為、キッチンから出て行った。
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