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画用紙の中のお母さんが赤く塗り潰されて行く。
左手の小指だけが。
トシオ君は、私の問い掛けには答えず一心不乱に塗り続けて居る。
「トシオ君?折角、上手に描けてるのに」
暗に止める様、促したがトシオ君は手を動かし続けた。
―ボキリッ
力を込めて塗っていたのだろう、赤いクレヨンは折れてしまった。
一瞬、マニキュアかな?とも思ったが違う様だ。
次は黒いクレヨンで塗り潰し始めた。
無意識に頭を撫でる私の手は下ろされて居た。
―ボキリッ
緑色。
―ボキリッ
茶色。
色に意味は無いのかな、左手の小指を塗る事が大事なのかな、お母さん遅いな。
そんな事をぼんやりと考えて居た。
迎えは未だだろうかとドアを見ながら聞いてみた。
「どうしてそこだけ塗ってるの?」
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