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折れた赤いクレヨンで私の左手の小指の爪を塗り始めた。
画用紙のお母さんの様に闇雲に塗り潰すのではなく、マニキュアを施す様に丁寧に。
「ト…ッ…く、や、…な…さ…」
これは愛すべき子供では無い、唾棄すべき生き物だ。
そう思うと声が擦れ、巧く言葉が出なかった。
―ガラッ
「トシオ君!お母さん迎えに来たよー、帰る準備は出来てるかな?」
同僚が迎えを知らせに来てくれた。
ハッと我に返り、この場から解放される安堵感に、私はまだ動けないままだった。
鞄と画用紙を手に持ったトシオ君は、ペタペタと素足を鳴らし、お母さんの元へ向かって行った。
もうあの笑顔では無かった。
その日はもう話をする気力は無く、玄関から2人を見送る事しか出来なかった。
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