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少女の父親は驚くべきほど
世渡りが下手だった。
今まで家を切り盛りしていた母が他界してから家計は急速に下降し始めた。だが、母が亡くなったショックで、父は数年前から寝込み家を立て直すどころではなく、嫡男である弟は当てにならないため、長女である少女に全てが回ってきた。
屋敷中の誰もがしっかり者で気が利く長女なら安泰だと高をくくっていたのだが、父親似の少女は家計を何とか立て直そうとしてもことごとく失敗するしかなかった。
どんどん貧乏になっていくサクシャーン家に絶望した使用人の多くは去っていった。
残ったメイドの一人があるとき言った。
「お嬢様はご結婚なさらないのですか?」
位が低く没落しかかった貴族に手を差し伸べてくれる後ろ盾は当たり前だがない。が、金持ちのいわゆる成金と呼ばれる者達からの縁談はいくつかあった。そのどれもが爵位が欲しいだけの一回りも二回りも年の離れた男で、子どももすでに成人しているような業突張りの集まりであった。
メイドに悪気はなかった。彼女は自分の行く末の心配より、その少女の未来を純粋に心配していただけなのだ。
しかし、それがより少女の心を追いつめたのは事実だった。
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