プロローグ

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「これでよし」 津山 稔は鏡に映った自分の顔を見ながら呟いた。 今年26歳になるが張りのある肌。大学時代にやっていた、ラクビーの影響で今も髪型はスポーツ刈りだ。 二重で大きめの目は人に好印象を与える。 体には自信があった。 いやあったはずだった。 それが今はどうだろう。 ラクビーを辞めてから運動をしていないので、下っ腹は見るも無残な姿になっている。 稔は下っ腹を擦りながら溜め息をついた。 「こんな事してる場合じゃないな」 稔は手早く手を洗うと化粧室をあとにした。 化粧室を出ると、自分が座っていた席に腰を降ろす。 喫茶店。普段一人で入る事はまずないが、今日は待ち合わせの為に仕方なく来ているのだ。 昨日の夜、婚約者の新藤千華から、明日会いたいという電話があった。 だから、こうして来たくもない喫茶店に来ていたのだ。 店の自動ドアが開く。 稔は自動ドアに視線を向けた。 仕事帰りなのだろうスーツを着た女が立っている。 茶色がかったショートカット。特徴的な一重の目が、右に左に泳いでいた。 22歳にしては童顔で中学生に間違えられるのも頷ける。千華だ。 稔はイスから立ち上がると 千華に向かって手をあげた。 千華は稔に気付くと軽く笑った。 その顔には陰りがみえ、気のせいか元気がないように見える。
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