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美紗と千華は、顔は瓜二つであったが、性格はまったくの逆だった。
千華は誰とでも仲良くなれる活発な性格で、美紗の方は物静かで知的な雰囲気がある。
稔が千華に会ったのは、一年前。
友達数人とボーリングをしていた時だった。
鮮やかにストライクを決めようと、ボールを投げようとした瞬間、隣りのレーンから 靴が飛んで来た。
あわてて、ボールを投げるのをやめ隣りを見た。
そこに片足だけ靴を履いたまま、照れ笑いしている千華がいた。
それが初めての出会いだった。
千華と付き合うことになり千華の家に招待された。
稔はそこで千華が双子で美紗という姉がいることを知った。
人見知りするタイプなのだろう。
美紗は始めの内は、目すら合わせてくれなかった。
だが、時間が経つにつれ、次第に打ち解けてくれた。
口数が少ないのは変わらなかったが、目を見て話してくれるようになった。
千華は美紗といると、いきいきしているように見えた。
それはまさに、一心同体と呼べるものだろう。
美紗がいなくなって心配するのは痛いほど分かる。
稔は美紗の行きそうな場所を考えてみた。
わかるはずがない。
千華の家で会う事はあっても 外であう事などないのだから。いや……。
一度だけ、外で会ったことがある。
三か月前。
偶然街で美紗と会った。
そして、喫茶店でお茶を飲んだ。
その時、美紗の顔が一瞬、千華の顔とダブって見えたのを覚えている。
だから……いや。
稔は慌てて頭を振った。
そんな事よりも、今は美紗がどこにいるかだ。
千華の悲しげな顔は見たくない。
稔は立ち上がると、勢い良く喫茶店を出た。
「お客さん、お金!」
忘れてた。
稔は店員に謝ると、お金を払った。
そして、そそくさと、その場をあとにした。
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