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自転車をこいだ。
夏休みの間ずっとわめき続けていた蝉の声は大分なりを潜め、世界は秋に近づきつつある。
俺と同じように自転車で前を行く後姿に向かって言った。
「退学するから」
二学期始まって間もない九月の初め、朱に染まりつつある遠くの山を眺めていたソイツは、すごい勢いで俺の方を振り向いた。
顔は唖然としていて、口が半開きになっていた。
笑えた。
翔にしたら、驚きの連続だろう。
登校途中に、いきなり退学の話だ。
学校に来ること自体が久し振りなのに。
「……は、え? なにそれ冗談? 退学してどうすんだよ」
「バイトとか? 学校、面白くないし。しかも俺の場合さ、自主退学しなくたって、出席日数足りなくて来年には退学じゃん」
俺の言葉に、翔は「そうだけど」と困惑気味に頷いたきり、唇に苦笑を貼り付けたまま黙り込んだ。
俺の唐突な退学宣言が本当なのか嘘なのか、判断しかねているのだろう。
俺は先手を打って一言告げる。
「マジだから」
翔が少しだけ目を見開いて、「そっか」と感慨深げに返した。
「なんで?」
「だから、学校面白くないからだって」
「それだけ?」
「それだけ」
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