2.wrong

5/13
前へ
/42ページ
次へ
ゆっくり顔をあげると、そこには結香がいた。 茶色いブーツ、スカート、そして白いコート。それらを纏った彼女は、なんていうか…… 素敵だった。 「どうしたのぼーっとして?」 彼女の言葉にあわてて、体勢を立て直すべく返答した。 「い、いや、なんでもない。よく寝坊しなかったなと思って」 結香は寝坊なんてしないよ~と反論しながら、そっぽを向いた。 俺は笑いながらベンチから立ち上がり、結香の手をとる。 「じゃあ行こうか」 俺が呼びかけると、結香は表情を一変して笑顔で頷いた。 それから俺たちはショッピングモールを回った。 ゲームセンターではUFOキャッチャーで、本屋では共感した作家の新刊で、 レストランでは無駄に長い料理の名前に、洋服店ではお世辞にも可愛いとは言えないキャラクターに、 ほんの些細な話題に華を咲かせ、二人で笑い合った。 予想以上の混雑のため、途中室内着の様な服を着た男と肩をぶつけ、舌打ちをされたが、それさえも俺たちの障害になれはしなかった。 俺の隣には結香が居て、結香の隣には俺が居る。 ただその状況を意識するだけで、幸せというものを感じる事が出来た。 あぁ。 この時間が永遠に続けばいいのに。 しかし楽しい時間の経過は短く感じるもので、無情にも時計の針はすでに9時をまわっていた。  
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加