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ゆっくり顔をあげると、そこには結香がいた。
茶色いブーツ、スカート、そして白いコート。それらを纏った彼女は、なんていうか……
素敵だった。
「どうしたのぼーっとして?」
彼女の言葉にあわてて、体勢を立て直すべく返答した。
「い、いや、なんでもない。よく寝坊しなかったなと思って」
結香は寝坊なんてしないよ~と反論しながら、そっぽを向いた。
俺は笑いながらベンチから立ち上がり、結香の手をとる。
「じゃあ行こうか」
俺が呼びかけると、結香は表情を一変して笑顔で頷いた。
それから俺たちはショッピングモールを回った。
ゲームセンターではUFOキャッチャーで、本屋では共感した作家の新刊で、
レストランでは無駄に長い料理の名前に、洋服店ではお世辞にも可愛いとは言えないキャラクターに、
ほんの些細な話題に華を咲かせ、二人で笑い合った。
予想以上の混雑のため、途中室内着の様な服を着た男と肩をぶつけ、舌打ちをされたが、それさえも俺たちの障害になれはしなかった。
俺の隣には結香が居て、結香の隣には俺が居る。
ただその状況を意識するだけで、幸せというものを感じる事が出来た。
あぁ。
この時間が永遠に続けばいいのに。
しかし楽しい時間の経過は短く感じるもので、無情にも時計の針はすでに9時をまわっていた。
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