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大橋部長は夫の会社の上司だ。
真面目でよく和哉を飲みに連れていってくれる。
そんな彼がこんな嘘をつくはずがない。
ジリリリリン🎶ジリリリリン🎶
また電話が鳴る。
幸子は恐々電話に出た。
「…もしもし…」
するとやはり相手は大橋部長だった。外からかけているのか、雨や雑音がすごい。
「奥さん‼‼‼
留守電聞いてくれた?今すぐ末永総合病院に来て‼危険な状態なんだよ‼‼‼」
幸子は足がすくんで動けなくなった。手もガタガタ震えて止まらない。それでも何とか「わかりました」と返事はした。頭の中がグチャグチャだ。
今朝「行ってらっしゃい」と言ったとき、無言で微笑んだ和哉の顔が浮かんでくる。いつもと変わらない朝だったはずだ。美里だって……
美里⁉
ハッと幸子は我に帰る。二人の間には13才になる女の子、美里がいる。美里はピアノのレッスンに出掛けている。
美里を呼ばなきゃ💦
あわてていた幸子はエプロンをしたまま、財布も持たず、スリッパのまま、土砂降りの雨の中、塾まで車を走らせた。
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