―序章―

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吹雪の山の中。 場にそぐわぬ城が立っていた。 黒い石で作られた城はまるで闇のようだ。 暗く、悲しい雰囲気を漂わせていた。 「ご主人様……あの計画をいよいよ実行するのですね……?」 「あぁ。あの娘さえ手に入れば力は私達のものになるのだ」 少女が玉座に座った男の前に跪きながら言った。 「早くあの娘を捕らえてくるのだ。精霊の加護を手に入れるために」 男は静かに立ち上がった。 「邪魔者は全て消し去れ。我が道を阻むものなら女や子供であろうとも。一切容赦はするな!」 「わかりましたご主人様」 少女は立ち上がり男に一礼をする。 「我が命に変えましても……ご主人様の願い……叶えてみせます」 「そうでなければ意味がない」 男は少女の顎に手をかけ、自分の顔を見せるように持ち上げた。 「お前は実力がある。忠誠心もある。いいか、必ず私のもとに娘を連れてくるのだ。お前と同じ精霊の声が聞こえる娘を」 男の冷たい目が少女を見据える。 少女は生唾を飲み込んだ。 額から一筋の汗が地面に落ちた。 「では行け」 男が手を離し、背を向ける。 少女はその背に向かって深く礼をすると、後ろにあった重厚な扉から出て行った。 「邪魔する者は全て消すのだ……それが唯一の友であろうとも……」 男は静かに呟き、自分の手を見つめた。
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