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そこは秘密の花園と表現することが適切というくらい神秘的な空間だった。
空から差し込む太陽の光が広場内を明るく照らし出す。広場に敷かれた極彩色の絨毯のような花々が天からの光を一身に受けて、そのどれもが微笑んでいるように見えた。
中心の切り株に、薄茶色と白の生地に装飾が施されたワンピースを着た少女が座り、目を閉じて気持ち良さそうに歌を歌っていた。
見た目からしてニコと同い年の十四歳か。はたまた十五歳か。どちらにしろ、ニコの年齢に近い少女には違いない。肩にかかる程の黒髪を揺らして歌う少女から、ニコは目を離すことができなかった。
やがて少女は歌い終えて、ゆっくりと瞳を開く。そして背伸びをして立ち上がったところでニコと目が合った途端ひどく驚いたような顔をして、踵を返して広場から立ち去ろうとした。
「綺麗な歌声だね!」
ニコは思わず声をかけた。それは引き止めるために出た言葉ではなく、ただ無意識の内に口から飛び出した言葉だった。
「僕の聞いたことのない歌だった。その歌の名前は何なの?」
「…………」
少女は振り返って先程とはまるで違う、凛々しい顔付きでニコを見つめた。そして一言、
「分からない」
ただそれだけを答えた。
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