第一章

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 世界は緑で溢れていた。 木々の間を緩やかな風が吹き抜け、青々と茂った枝葉を揺らしながら大空へと還って行く。 休むことなくこの星を照らし続ける太陽は、今日も世界に光と温もりを授けてくれる。  ニコは今日のような雲一つない快晴が大好きだ。 心が世間のしがらみからようやく開放されたような気分になるから。 こんな日はいつも屋根の上に寝転んで、世界と繋がっているような感覚を堪能する。  ふと崖の下を見ればニコの住む町、リリアーニャの美しい町並みが広がっていた。 その少し上を数羽の白い鳥が、クークー、と鳴きながら過ぎていく。  ニコはすっかり気持ちが良くなって、上下の瞼は徐々に近付いて行き、最後には小さな寝息を立て始めた。 三度風がニコの頬を優しく撫でたとき、家の玄関から少々幼さが残る青年の声が聞こえた。 「おーい!また屋根の上で寝てんのか?仕事に行く気がねぇなら置いてくぞー!」 ニコの丸っこい目が勢い良く開き、素早く体を起こす。 「待って!今行く!」  大声で玄関に返答し、天窓から屋根裏部屋に入った後、真っ直ぐ階段に向かう。 騒々しい音を立てながら、階段を流れるように降りると、右手の壁に掛けてあったボロボロの帽子と上着を無造作に掴み取って、真逆の位置にある玄関へ疾走。テーブルの上のショルダーバッグを引っ掴み、乱暴に扉を開けた。
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