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「約束の時間すっぽかしやがって。何時まで寝てんだよ!」
そこに立っていたのはニコの親友でもあり、仕事仲間でもあるラッシェだった。
ニコよりも良い服を身に着けている、と言っても一般人のような高価な服ではない。
精々ひどく汚れているか、少し汚れているかの違いだ。
垂れ目とそばかすが特徴的な彼は、ニコを見て意地悪く笑みを浮かべる。
「寝てないよ!……ウトウトしてただけ」
「それも『寝る』の分類に入るんだよ!……そんなことはどうでもいい。今日もガッポリ儲けるぞ!」
「もちろん!」
帽子を被ると共に上着を羽織って、ニコはラッシェの後を付いて行く。
彼らの向かう先はリリアーニャの一般街。
比較的裕福な人間が集まった地域だ。
二人はそこでスリをして毎日の生活費を稼いでいる。
働こうにもその身なりを見ただけで門前払い。
運良く仕事をもらっても、生活なんてできないほどの低賃金。
ラッシェを含む貧困街の住人はこうでもしない限り生きる術がないのだ。
以前はニコもそこの住人だったのだが、何か食べるものはないかと町の脇にある盛り上がった崖の上を探検したときに空き家を見つけて以来、こちらに住み着いている。
もちろんニコはラッシェに一緒に住む事を提案したが、ラッシェには彼を頼りにする多数の貧困街の子供がいたため辞退した。
二人は崖の壁に沿うように作られた階段を軽快に降りていく。
ニコがあの家に住み始めてから半年経った今、この長い階段にもすっかり慣れたものだ。
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