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ニコはふと、リリアーニャの向こうに広がる広大な森を見た。
――魔女の森。世界で唯一、魔女が存在すると言われている森。
昔から町の住人は気味悪がって近付くことさえしないが、その理由をニコは知らない。
「おーい!何やってんだよ、ニコ!早く来い!」
ニコは慌てて声のしたほうを見ると、ラッシェは既に階段を降り終えていた。
緩んだ気を引き締めるかのように首をブンブンを左右に振ると、ニコはラッシェを待たせまいと階段を駆け下りた。
ニコの家が他人に見つからないのは、リリアーニャの住人が滅多に町から出ないということもあるが、最も大きな理由として林の中に階段がある、ということが挙げられる。
外から一見すると何の変哲もないただの林に見えるため、町を訪れる旅人でさえこの階段の存在に気付くことは無いのだ。
二人は林の中から用心深く周囲に人がいるかを確かめた後、アーチ状に設計された門をくぐった。
途端にリリアーニャの清楚な町並みが視界いっぱいに広がる。
前方に緩やかなカーブを描いていくレンガ造りの通りが延びて、その右脇に通りと同じ材料を用いて造られた建物が並ぶ。
対称の位置に、舗装された小川が流れていて、少し進んだ先に緩やかなアーチを描いた橋が架かっている。
遠くの方で汽笛の鳴る音が聞こえた。リリアーニャの西に建設された駅から蒸気機関車が発車したのだろう。
この音が聞こえてくる度にニコの心は期待感でいっぱいになる。
ニコはその姿が表すように、一般市民の三分の一ほどもお金を持っていないため、リリアーニャ以外の町の存在を知らない。
蒸気機関車はニコにとって、まだ見ぬ世界に向けて走る夢の箱なのだ。
「じゃあ仕事を始めるぞ。今日の目標は……二、三人だな。でも気をつけろよ、最近町の奴等のスリに対する警戒心が少し強くなった感じがするからな」
「オーケイ!集合場所はいつもの場所でいいんだよね?」
「あそこ以外にどこがあるってんだよ!――じゃあ、上手くやれよな!」
ラッシェは歩きながら右手を挙げてひらひらと振ると、徐々に町へと溶け込んだ。
さてと、と気持ちを入れ替えてニコは獲物を探し始める。
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